半田広宣コラム 「ヌースの時間」
世間はアベノミクスといって騒いでいる。ご存知の通り、アベノミクスとは「財政出動」「金融緩和」「成長戦略」という「3本の矢」で長期のデフレを抜け出し、名目経済成長率2%を目指す、という安倍政権が打ち出している経済政策のことである。メディアは実質を伴わない数字だけの成長に日々一気一憂している。
経営者の身でこんなことを言うのはひんしゅくを買うかもしれないが、日本経済はもう十分成長し切っていると思う。「財政出動」と言えば聞こえはいいが、これは国の借金だ。借金してまで一体何に公共投資を行うというのだろう。成長期には高速道路建設や新幹線整備への投資は重要だった。それによって国内の産業は活発化し、十分に元を取れる投資にもなった。
しかし、これから何を建設しようというのだろうか。人口も減っていく。企業の生産拠点は国外に移っている。果たして採算のとれる公共投資など残っているのだろうか。
金融緩和にしても少し考えて頂きたい。物価が下がっているのは国民の所得水準が減っているからで、金利を下げたからといって庶民の財布が豊かになるわけではない。これもまた一部の投資家や大企業が潤うだけの話ではないのか。
大企業が潤って国民生活が豊かになるかと言えばそれも違う。今や市場はグローバリズムの時代。グローバリズムの根っこは金融資本主義である。大企業は国内の高い税率を避けて、拠点を海外に移し国内に還元しようとしない。資本主義が国民を豊かにする時代は終わったのではないだろうか。ましてや、今の金融市場はスーパーコンピューターのシステムに左右されていて、個人の投資家の頭のスピードではとても追いつけそうもない。
あと経済成長戦略の主軸が農業だというのも疑問が残る。放射能汚染の問題をうやむやにしたまま、日本の農業を復活させるというのは、正直難しいのではないのかと思うからだ。
結論としてアベノミクスは「あの素晴らしい成長をもう一度」を夢見る時代錯誤の政策群のように思えてしまう。「経済成長」という目標が、水戸黄門の印籠のように通用する時代自体がもう終わっているのだ。
経済の低迷は何も日本に限ったことではない。世界経済自体が行き詰まっている。
歴史的に見れば、世界経済の成長は大国の資源開発と途上国への支配によって支えれられてきた。しかし、地球はすでに隅々まで荒らされてしまって、自然環境も限界に近づいている。開発途上国に製品を売り込みたくても資源には限りがある。先進国の資本主義が製造業やサービス業から、金融業へとその屋台骨を移動させたのも、もう金利で利益を上げるしかなくなってきているという一面があるからだ。
今、世界に必要なのは経済成長ではなく、富の、より公平な配分の方法をいかに作り上げるかではないかと思う。新しい政権には「所得が極端に二極化しないような経済戦略」というものを是非、考えていただきたい。
私から見るとアベノミクスという言葉は、時代が向かっている方向性を見間違えた「アベコベミックス」と言ってもいいように感じてしまう。
2013年6月-ブロッサムNo.52
インターネット社会と人間社会
凶兆と吉兆
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福岡県生まれ。1983年心身を健康にする未来型健康商品の開発・販売を始める。株式会社ヌースコーポレーション代表取締役。現在、武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー(SAF)。