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半田広宣旧コラム 「ヌース的人生のススメ」

団塊の世代とアダルトチルドレン



最近、子供が被害者となる凶悪犯罪がやたら増えてきている。そこで、警視庁の犯罪白書で最近の子供殺しの犯罪統計を調べてみることに・・・。驚いた。子供が被害者となった殺人事件の数は平成13年度の1年間だけでも60件(傷害致死も含む)。そのうち何と、26件が母親の虐待によるものだったのだ。
メディアでは青少年の凶悪犯罪の方が派手に取り沙汰されるが、統計的に見ると、青少年の殺人率が年々低下していっているのに比べ、母親による子供殺しは年々増え続けている。これは意外だった。今や、キレる若者というよりも、キレる母親の方がはるかに深刻な問題となっているのである。

本来、子供を慈しみ守るべき母親たちが、子供を虐待し、あげくの果てには死に至らしめる――どうしてこういうことが起こり得るのだろうか。相手はもの言わぬ子供たちなのだから、当然、非は母親の方にあることは確かだ。
しかし、母親たちの方にも言い分はある。昔ならば、子供の面倒は家族や地域社会が一体となって見てくれていた。大家族制の時代には、おじいちゃんやおばあちゃんに子守りを頼めただろうし、兄弟や近所の人に面倒を見てもらうこともできた。しかし、現在では子育ては終始、母親一人の手に委ねられている。子育てに純粋な喜びを見出せる人はいいが、独身生活を自由気ままに送ってきた現代女性たちが、結婚生活に入り、いきなり1対1の子育ての現場に閉じ込められるのは極めて過酷な状況と言っていい。その過酷さに耐えかねて、常軌を逸した行動に出る母親がいたとしても何の不思議もない。
「親の因果が子に報い」とは昔からよく言うが、この問題の深刻さは疫病のように次世代へと伝染していくだけに余計厄介だ。

皆さんは「アダルトチルドレン」という言葉をお聞きになったことがあるだろう。この言葉は、もともとは、アルコール依存症の父親や母親の家庭に育った人たちのことを指す。そうした人たちは、親から与えられたトラウマのために、人と親密なることができなかったり、コミュニケーションが苦手で、自分の感情表現がうまくできなくなったりすると言われている。 しかし、現在ではこの「アダルトチルドレン」は、機能不全を起こしている家族(親の暴力、虐待に限らず、厳しすぎる教育、不安や緊張の強い家族、子供に対する無関心さ、過剰な愛着など)のもとで育った人たち全般を指す総称となっている。それだけ心を病む子供たちが増えてきているということだ。

虐待や子供殺しとまではいかなくても、現代の母親にかかる子育てのストレスは苛烈なものがあるだろう。そうした精神状態で母親が子供と接している限り、その怒りや不満の感情は、必ず幼少時の子供の心の中に深く刻み込まれる。そこでできた傷は、成長するに従って、母親や父親のみならず、他人全般への不信となって首をもたげてくる。当然のことながら、そうした子供たちは、自分たちが親となったとき、今度は子供との関係をどう築いていいか分からなくなり、いけないこととは分かっていながらも、自分が親から受けた処遇と同じことを子に対して繰り返してしまう。
今、子供の虐待事件を起こしている親たちの世代は団塊の世代ジュニアである。核家族やニューファミリーに憧れ、豊かで快適で自由な家庭生活を築いてきたつもりの団塊の世代。アダルトチルドレンとは、そうした団塊の世界が築き上げてきた価値観の犠牲となった者たちと言っていいのかもしれない。

この問題の解決は世間で騒がれているいかなる政治的、経済的課題よりも緊急な課題のように思える。というのも、人間社会の基盤はすべて、親子関係の中に集約されているからだ。そこが狂えば世の中のすべては狂う。
親子間の人間関係の絆を取り戻す術は何なのか、また、親子関係を要とする旧来の家族制度が限界に来ているとするのならば、新しい家族の在り方とは何なのか、わたしたちは真剣にこの問題について考える時期にきている。

2006年7月-ヌース通信No.23

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