半田広宣旧コラム 「ヌース的人生のススメ」
日本時間2003年8月15日未明にニューヨークを中心にごく米地帯で起きた大停電は記憶に新しい。現代人の生活は電気に頼っている。一旦停電すると、全ての都市機能は麻痺状態に陥り、私たちの文明がいかに脆弱かを痛感させられた。
この事件について、日本の政治家や防災関係者は「日本はループ送電によるバックアップ体制が完全だから米国と同じ災害は起こり得ない」とコメントしていた。
ちょっと待て。ループ送電なんかのテクニカル・タームにごまかされてはいけない。この手のやり取りは聞いたことがあるぞ。
1994年1月17日、ロサンゼルス・ノースリッジ地震で多くの高速道路が崩壊した時、彼らは「あんな古い高速道路はないから、関東大震災級の地震に襲われても、ロサンゼルスのような災害にはならない」と口を揃えていた。
ちょうど1年後の1月17日、阪神・淡路大震災が起こる。そして高速道路はおろか、新幹線の橋脚も一瞬にして崩れ去ってしまった。その時彼らは「考えられない災害だった」と口々にコメントした。
嗚呼、あれほどの悲惨な災害が何の教訓にもなっていないではないか。起こり得ないことが起こる、それが事故というものだ。事故は技術と共に進化してきた。技術が進歩すれば、新しい事故が出てくるのは当然だ。事故とは常にそういうものなのだ。
大停電が日本の大都市で起きたらどうなのるのか。東京の周辺人口は2~3千万にも及んでいる。携帯は通じないし、TV、ラジオ、地下鉄、信号機、ATM、食品の保冷機能もダウン。自動車もスタンドのポンプが動かず、ガソリンが買えない。こうなると否が応でもパニックになる。
1977年のニューヨーク大停電では5千件以上の窃盗が起きたそうだが、幸いに今回は大規模な略奪・犯罪は起きなかった。9・11のテロ事件によってニューヨークの人々の意識が大きく変わったということらしい。
パニックを防ぐには、行政レベルの危機管理の充実も必要だが、要は各個人の腹の据わり方が一番の問題だ。
ニューヨークではこの停電をイベント感覚で楽しんだ人々が大勢いたと聞く。普段は口も聞かない者同士が、夜空の下で共にささやかな晩餐。ローソク利用の無料ナイトクラブが開店。このような楽天的な人々の行動がパニック・犯罪を未然に防いだという評価もある。
危機管理とは何もシステムを徹底させることだけではない。危機的状況に立たされた時にどれだけ平静でいられるか、そんな精神力を養わなくては、いかなる危機管理ノウハウも用を為さない。
何より大事なのは、停電は危機でも何でもないと思わせるような天使的身振りを持つことである。それが人間同士の心の絆にあることは言うまでもない。
赤信号、皆で渡れば怖くない ―― 非常事態時にこそ、このような精神でありたいものである。
2003年9月-ヌース通信No.13
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福岡県生まれ。1983年心身を健康にする未来型健康商品の開発・販売を始める。株式会社ヌースコーポレーション代表取締役。現在、武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー(SAF)。