こころの相談室 酒井先生からのアドバイス

最近は大人だけでなく子供たちの心の失調が問題視されていますが、医療の現場ではどうでしょうか?
全世界的な傾向として、3歳位から多動性障害になる子供が増加しているそうです。その変化を一番よく分っているのが現場のベテラン保育士さんで、長年培ってきたノウハウが今の幼児に通用しないと苦悩されています。昔は心の調子が悪い子どもというのは10人に1人もいなかったのに、今は大げさでなく3人に1人が調子が悪い、と感じるそうです。
このような状況を子育て環境や教育の問題とする人もいますが、社会モラルの低下を原因とするのは正直疑問ですね。なぜなら誠実に子育てをしているお母さんも多いし、今の公教育というのは、小学校からのケアをかなり重視していて、先生たちも必死で改善に取り組んでいるからです。
では、何が子供たちの心に悪影響をもたらしているのでしょうか?
原因の一つとして、授乳している母乳の栄養素に関係があるかもしれませんね。ただし決して栄養不足ということではありません。それこそ昔の子供は、栄養不足でも外を走り回ったり、家の手伝いをしたりといった元気な子どもばかりでした。今の子ども達は幼少期ですら、子どもが当たり前のように持っていたエネルギーが減っています。そういった子どもがそのまま大人になることで精神的エネルギーの少ない人が増え、結果ストレスに耐えられない大人が増えてきているのでしょう。
落ち着きがない、集中できないというのは、幼い頃にその原因を見つけて、適切にケアするということが必要です。私がその原因として一番注目しているのは、やはり栄養的な面です。では何の栄養が足りないのか?という疑問に対しての一つの答えが、食物繊維のキトサン※や、フェルラ酸なのではないかと思っています。
これらの成分は日本だけでなくアジアや欧米でも、昔から一般的に庶民が食べていたものに含まれます。食生活が世界的にも劇的に変わってきているのが、多動性障害が増えている原因ではないかと分析しています。
健全な食生活をすることで、多動児や発達障害にかなりの改善が見込めるということでしょうか?医療の世界ではまだ改善方法が見つかっていないとのことですが・・・。
そうですね。今のところ医療のアプローチでは予防も治療も難しいところです。現場の教育者はしつけが原因じゃないか、今やっていることが間違いじゃないかと、とても苦しんでいて、このままでは今行われている教育改革も無駄に終わりかねない。それよりも子どもの精神状態に合わせた栄養の見直しが急務だと思います。例えばイライラしやすい子にはキトサン、集中力が続かない子にはフェルラ酸などの摂取はいいと思いますね。
とにかく教育・医療現場ですら模索が続いている以上、最大限、自分でできることで防衛していかなければ・・・。たとえ薬ができても、その認証に10年はかかりますから。現時点でも発達障害に効果があるものは見つかっていないのです。
また、大人の社会に目を向けると、うつによる休職が急増していて、復職後の再発も多いそうですね。
現代に限らず、昔から心の弱い若者はたくさんいました。でもそういった人は会社に入ってから教育され、社会に揉まれながら一人前になっていました。でも今はその教育が効かない、教育しようとしてもはみ出てしまうそうです。年長の管理者からすると、今の若い人は・・・となるのでしょうが、実は昔と比較して、会社自体の雰囲気も悪くなっている場合もあるようです。
先日、東京大学を卒業し大企業に入って、3年してうつになった患者さんを診察しました。話を聞いてみると、誰だってこれはあんまりだ、というような辛い仕事を会社側が若い人に要求していて正直驚きました。企業自体も余裕がなくなって、人の使い方や適性診断が上手くできなくなりつつあるのかもしれません。
大企業ほどそういう摩擦が多くトラブルが深刻化するのでしょうか?
優秀な人程我慢を重ねるので、休職に至るような重いうつになる確率が高いのかもしれません。放っておけば良くなるというものでもないので、やはり自分自身でケアを心がけなければならないのです。うつは人によっては繰り返し、休職に至ってしまいます。私は産業医もやっていて、うつによる休職の予防を目的として各企業でのストレスチェックが始まったのですが、社内カウンセラーのカウンセリングだけでは正直手が回らないと思います。
なぜなら、うつは同環境だと再発しやすいことがわかっていて、元の職場に戻るというのはかなり難しいことなのです。さらに、休職を繰り返すスパイラルに入ると、現在の様々な薬を使ってもなかなか良い方向にいかないこともあります。
うつ病は一番深いところに入ってしまうと、一度治療しても以前のイメージが残って、その後のケアが上手くいきづらいのです。やはり自分自身や家族でケアを心がけ、先手先手で早いうちに予防しないといけないと思います。それには食生活の改善が早道で、しかも「腸」に良い働きをしてくれるものが大事だと思うので、アドバイスをするとしたら食事でも食物繊維をしっかり摂ることをすすめます。
2001年のヌーススピリッツ発売の際、酒井先生に話して頂いた腸脳論※も、あの頃はまだ未解明ということだったのですが、今では腸は第二の脳であり、セロトニンが脳と腸でできているという話は一般的な情報になりました。
※人間の心は脳でコントロールされていると思いがちですが、最新の研究によると、腸と脳はお互いに密接に関係しあい、気分や感情、免疫系、さらにはホルモン分泌など長期的な健康に関する化学的作用に影響を与えることがわかっています。また、腸は内臓の中で唯一、脳からの指示がなくても自分の判断で働くことができるため「第二の脳」とも呼ばれ、心身の健全な働きを助けています。全身の自律神経をコントロールしているので、逆に腸の不調は、自律神経を介して脳のストレスにもつながるのです。
神経伝達物質の1つであるセロトニンは人間の体内で合成され、きちんと分泌されていると落ち着きや心地よさをもたらします。ただ、うつの人はセロトニン不足というより、セロトニンを含む回路が上手く働いていない状態というのが本当で、そのメカニズムは少しずつ解明されてきています。
また、精神医療ではうつのケアはカウンセリングが重要視されていますが、学校カウンセラーや社内カウンセラーは現実的になかなかうまくいっていません。
それはなぜなのか、心の問題は(カウンセリングで解決する問題とは)別に他にも原因がある、という考え方は説得力があります。先程のセロトニンについて、感受性を持っている細胞としては腸に95%含まれますので、まずは腸内をケアしないとカウンセリングはうまくいかないと考えています。
そして、心の失調を改善しようとすると薬が増えていくようですが・・・
まず薬の認識を変えるとよいと思います。精神科では様々な薬をもらうと思うのですが、効いてもその中の1~2種類で良い、という認識を持つことです。まず知っておいて欲しいのが、飲む薬がどんどん増えていくというのは決して医者が利益を上げようとしているわけではないということです。
患者さんに多くの種類の薬を処方すると、実は保険点数というのは下がります。あくまでより良い治療方法を探す中で他に選択肢がないため、たくさんの薬を使わざるを得ないのです。
薬を止めることを目標にしてもいいのですか?
意志があれば計画的に止めることができます。もちろん止めてはいけない薬もありますから、担当医に明確に「減らしていきたい」と相談すれば、きちんと対応してくれる先生も多いと思います。
「この薬は一生飲んでください」と言われショックを受けた方がいるようです。
薬の内容が詳しくわからないので、なんとも言えませんが、それは飲み続けても副作用の少ない安全性の高い薬なのでしょう。但し、それは安全な分、効果が明確にわからないものが多い。ですから飲んでも正直ピンとこない薬なのに、なぜ続けるのだろう、と考えてしまうのかもしれませんね。
先生は薬だけではない治療法も視野に入れ、試みられているようですね。
それは病気によります。例えばてんかん系の病気は、薬での治療が必要です。同じく統合失調症も薬を使わないと身体に危険が及ぶこともあります。ただ、私が処方で今でも難しいと思うのがうつなんです。もし患者さんからうつの治療中に薬を止めたいと言われたら、私は必要な1~2種類を残して減薬します。
抗うつ剤はこれ一つでいいというものがなく、一つでは少し足りない部分が出てくるからです。薬は究極的には、効いてくれればその人の助けになるのですが、やはり問題になるのは副作用です。効く部分より副作用の方が生活に悪影響を及ぼす場合、私は患者さんと相談してその薬を飲み続けるかどうか選択してもらっています。
そのような場合、薬ではないサプリメントの飲用で期待できますか?
そのような時にサプリメントが選択肢として、また、補助としてあるのはとてもいいと思います。うつだけでなく様々なことの予防にもなりますし、何より安全ですから。特に若い方には積極的に摂ってもらいたいですね。まず、食生活を良いものにして、そして食物繊維を摂るだけでなく、糖分、炭水化物の過剰摂取には注意してください。現代人はそれらの依存症といってもいい状態で、心のバランスが乱れる原因となっています。その人の普段の食生活というのは、地域性、家庭や経済環境など複雑に関連しており、簡単に変えることは難しいものですが、でもそこを覚悟して変えましょう。そうでないと、自分も子供達も守れないですしね。
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1951年東京都生まれ。東京大学文学部卒業、筑波大学 医学研究科博士過程修了。現在「ストレスケア日比谷クリニック」院長。オリコン・エンタテイメントより発売の書籍「患者が決めた!いい病院 2007年度版」内にてストレスケア日比谷クリニックが第3位に選出。