こころの相談室 酒井先生からのアドバイス
うつなど心の不調で悩む家族がいる場合、どのように接すると良いのでしょうか?
周りはまず何よりも「一喜一憂することなく見守る」という姿勢が大切です。心の不調の回復過程というのは一直線に回復に向かうものではなく、良くなったり悪くなったりを振り子のように繰り返していきます。
一喜一憂することはその時々の状態に振り回されることになり、それは不調を感じている当人にとっても大きな精神的負担となります。ですから、多少良くなったからといって喜ばない。逆に多少悪化しているなと思っても、決して悲観しないことです。
例えば、「励ますのはNG」とよく聞きますが、それは本当なのでしょうか?
うつ病の場合、発言する側がそういったニュアンスを込める込めないにかかわらず「頑張って!」という励ましは、本人にとっては「頑張りなさい」という命令に感じられてしまいます。それは大きなプレッシャーになり事態を悪化させますから、そういうタイプの言葉がNGなのですね。
逆を言えば、命令調にならない励まし方が出来るのであればOKなのですが、それは本当に難しいことです。言葉には薬と同じように効き目があります。効き目があると言うと語弊がありますが、患者さんにとって必要な言葉というものが確実にあります。
けれども、その人にとって必要な薬(言葉)が今何なのか、家族が判断することは難しい。なぜなら「こうあって欲しい」、あるいは「こうじゃないか」といった自分の希望や正しさが強く出てしまったり、逆に「私が悪かったのではないか」と自分を責めて罪悪感を持ってしまうからです。
人間というのは、基本的にもっと強いもの。過度に心配する必要はありません。むしろ変に気を使いすぎた方が患者さんにとって心の負担が大きくなります。
では、どのように接すると良いのでしょうか?
接し方としては、「いつもよりも淡々と接する」ように心掛けてください。特に「いつもより」ということがポイントです。なぜなら、ほとんどの場合、周りの私達自身が淡々と接することが出来ていないのです。ヒステリーになっていることに自分でも気付いていない。そういうことが、実は私達周りの側にも日常的に起きていることが多いのです。
とにかく周りが共倒れしないということは非常に重要なこと。よく昔から「親が子供の犠牲になるのは当然で仕方のないこと」と言われていますが、たとえ家族の誰かが苦しんでいても、その家族を構成している周りの人々の幸せを維持していくことも重要なことなのです。
ですから、一生懸命ケアするあまり、自分たちの幸せが損なわれてしまうということは避けなければなりません。「まずは自分が健康でなければケアは出来ない」、このことを常に念頭において関わっていただきたいですね。
最後に、周りが患者さんと一緒に心の不調に向かい合い取り組んでいくためのアドバイスをお願いします。
「治って欲しい」という励ましは、素晴らしいことのように聞こえるかもしれません。でも、患者さんにとっては程度の差がありますが、周りからのプレッシャーにしかならず、心の不調の場合にはそのような関わり方は避けたほうが良いのです。繰り返しますが、そのためにも症状に一喜一憂することなく、本当に見守っていくというスタンスも大切なのです。
励ましや応援、「何かをしてあげたい」という思いとは裏腹に何もしないで見守る方が、結果として逆に良い方向に繋がることもあるのです。周りにとっては複雑な心境かもしれませんが相手を思えばこそのこと。是非心に留めておいていただければと思います。
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1951年東京都生まれ。東京大学文学部卒業、筑波大学 医学研究科博士過程修了。現在「ストレスケア日比谷クリニック」院長。オリコン・エンタテイメントより発売の書籍「患者が決めた!いい病院 2007年度版」内にてストレスケア日比谷クリニックが第3位に選出。