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ほしのかたちみ~イデアサイコロジーの世界~

「カサンドラ症候群」ってなに?



パートナーの理解

前回は発達障害についてお話ししてきましたが、その関連用語として「カサンドラ症候群」という概念があります。

「カサンドラ症候群」とは、2000年代初頭からアメリカのアスペルガー症候群(自閉症スペクトラム障がいのうち知能に障がいがない状態)の家族会によって提唱されはじめた概念で、「自閉症スペクトラム障がい(ASD)のうち、特にアスペルガー症候群の方をパートナーまたは配偶者に持つ方が、相手とのコミュニケーションが上手くいかないことから心身の不調を来した状態」を指します。
これは精神医学の正式な病名ではないのですが、日本でも特に2010年代以降に広まってきていて、実際私のセッションのお客さまにも増えてきています。

さて、この「カサンドラ症候群」は具体的にはどのような状態なのでしょうか。昨年ほしのかたちみの記事で、「ASDの方は他人の立場に立つことが苦手・他人の表情が読み取れない・強いこだわり・自分のルールや予定が狂うことを嫌うなどの傾向から、主に人間関係で問題が生じやすい」とお話ししました。例えば、アスペルガーの男性の場合、奥さんが熱を出して寝込んでいても「大丈夫?」と声をかけずに、悪気もなく「ご飯まだ?」と聞いてしまったりします。

このような対応が続くと、どうしても「自分は人間として尊重されていない」という寂しさ、無価値観、孤独感を感じるようになります。また、特にアスペルガーの方は仕事では優秀で、外では真面目でいい人と思われることも多いので、その孤独感や違和感を親や兄弟、友人に話しても「いい旦那さまじゃない?」「男の人なんてそんなものよ」「求めすぎ」と理解されないという経験をするケースが多いんですね。
そうなると、ご本人はさらに孤独を感じ「自分がおかしいのでは」「自分はダメな人間」と自分を責めていくようになるので、精神的にも身体的にも調子を崩してしまいます。

ここでご本人が「自分はカサンドラ症候群で相手はASDの可能性がある」ということを自覚できれば、自分を責めることをやめ、ASDの特性を勉強して対応を工夫する、相手にもASDの可能性を伝え診断を受けてもらうなどしてお互い歩み寄ることで、関係性が非常に改善する場合もあります。
でも実際はこのように改善できるケースは多くはなく、相手が自分のASDの傾向を認めてくれない場合もあるので、その場合は関係性の改善は難しく、離婚に至ることもあります。

お互いが歩みよっていくことが大切

先ほど「カサンドラ症候群」はここ10年くらいで広まってきたとお話ししましたが、最近では逆に「ASDに対する差別なのでは」という声も出てきています。

ASDの方は遺伝的にそのような特性を持って生まれてきているので、ご本人の責任というわけではないです。それなのに「ASDと付き合うと病気になると言われるのは差別なのではないか」ということなんですね。
さらに、人間は自分の人生がうまくいかないことを無意識に相手のせいにしたがる性質もありますので、そのような時に「私はカサンドラ症候群」と思い込んで相手を責めるというケースも出てきています。また、そのように思い込んでいる方が実は自分がASDだったという場合もあるようです。

ですが、私のお客さまにも現実に「カサンドラ症候群」の状態で苦しんでいる方がいらっしゃいますので、以上のようなケースがあるからといって「カサンドラ症候群」の存在自体を否定しても状況は改善しないと思うんですね。

やはり大切なのは、お互いがお互いの持って生まれた特性や家庭環境・友人関係・学業・仕事などで作られた考え方や思い込みなどを理解して、お互いの立場に立ちつつ歩み寄っていく姿勢だと考えています。ただ「カサンドラ症候群」の方には、「相手がASDだと自覚して特性を学習し対応を工夫しながら話し合いをする」ということに加えて、しなくてはならないことがもう1つある場合も多いです。

実は「カサンドラ症候群」の方には、自分の親子関係でのネガティブな経験(常に否定される・価値観の押し付け・理不尽な対応・過干渉・無関心など)があり、自分の感情を抑圧して、周囲の顔色ばかり伺って他人軸で生きているというケースがよく見られるんですね。
ですから「カサンドラ症候群」の方は、ASDの特性を勉強し対応を工夫することに加えて、自分の中にある思い込みや溜まっているネガティブな感情、自信のなさ、自分を責める傾向などにも向き合う必要が出てきます。

このように「カサンドラ症候群」の状態を改善することはかなり複雑な作業になりますので、一人で対応することも可能ではありますが、臨床心理士などの専門家に相談するのも1つの選択肢としてお勧めしています。

発達障がいのグレーゾーンについて

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春井星乃

春井星乃Harui Hoshino

お茶の水女子大学大学院博士前期課程修了。臨床心理士として精神科クリニックに勤務し、東京都スクールカウンセラーも経験。心理学・精神分析・エニアグラム(9つのタイプによる性格分析法)を通して、人間の性格構造を明らかにする「イデアサイコロジー」を提唱。著書に『「目覚め」への道の歩き方』。

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